越境トラブルは“悪気ゼロ”で起きるもの
「お隣のブロック塀がうちの敷地に少し入っている気がする」「カーポートの屋根の雨がうちの土地に落ちてくる」
こうした越境トラブルは、実は珍しいことではありません。
越境は、誰かが悪意を持って起こすというよりも、施工時の測量の誤差や古い塀の経年変化、リフォーム時の確認不足、境界杭の欠損などが重なって発生することが多いです。
お互いに「自分が正しい」と思っていても、図面や現況の違いから意見が食い違ってしまうことがあります。
だからこそ、感情的になる前に「事実の整理 → 合意形成 → 書面化」という順番で冷静に進めることが大切です。
ここでは、越境を見極める方法や費用・期間の考え方、実際に使える覚書の内容をわかりやすくご紹介します。
越境の見極め方と確認手順
越境を解決するためには、「図面」「現地」「合意」の3つをそろえることが基本です。
まず、よくある越境の例としては、次のようなものがあります。
ブロック塀の中心がどちらの土地に属しているかわからない、カーポートの屋根や雨樋が数センチ出ている、フェンスの支柱や門柱が境界を越えている、植木の枝や根が隣地にはみ出しているなどです。
こうした「少しのズレ」が、将来の売買や相続時に問題になることがあります。
次に、自分でできる範囲の確認を行いましょう。
登記情報や地積測量図、公図を確認し、土地の形や面積を把握します。
過去の売買契約書や重要事項説明書を見て、「公簿面積」か「実測面積」かも確認しておきましょう。
現地の写真を撮り、境界杭があるかどうかもチェックします。杭がなければ、まずは復元が必要です。
もし図面が古い、境界があいまい、越境の幅が微妙などの場合は、専門家による「境界確認測量」を依頼すると確実です。
測量機器で座標を測り、古い資料と照らし合わせ、仮杭を打って近隣立会いを行います。合意が取れれば本杭を設置し、越境が確認された場合は覚書を作成します。
大切なのは、感情の前に「位置の事実」を明らかにすることです。

費用・是正の考え方
越境の対応で最も揉めやすいのが「費用を誰が負担するか」という問題です。
原則としては、原因を作った側(新設や移設を行った側)が負担します。
ただし、前の所有者が原因だった場合や原因が明確でない場合は、折半で費用を分け合うケースもあります。
また、すぐに撤去するのではなく、使用を一時的に認める代わりに「将来は是正する」という約束を交わす方法もあります。
雪や雨など季節によって工事が難しい場合もあるため、時期や期限に柔軟性を持たせると合意がスムーズに進みます。
是正のタイミングは、越境の内容や規模によって変わります。
軽微な場合はすぐに対応し、工事が大掛かりな場合は「建て替え時」「○年○月まで」といった期限を決めておくと安心です。
撤去が難しい場合には、永続的な使用を認める「使用承諾」や「地役権設定」で法的に整理する方法もあります。
合意を円満に進めるコツ
話し合いのときは、先に「目的」を共有することが大切です。
「お互いが将来困らないように、位置の確認と是正計画を立てたい」というように、共通のゴールを伝えましょう。
立会いの際は、短く・分かりやすく進めます。
30〜45分程度を目安に、資料はA3サイズの図面を用意し、現地で要点を説明します。
合意できない点があっても無理に決めず、保留として記録に残します。
言葉遣いにも注意が必要です。
「全部そちらの責任ですよね?」といった断定的な言い方や、「法的には〜」という言葉を繰り返すのは逆効果です。
「どうすればお互い困らないか」という姿勢で話すことで、協力的な雰囲気が生まれます。
覚書でトラブルを防ぐ
越境が確認されたら、覚書(合意書)を作っておくと安心です。
内容には、越境の箇所や範囲、是正の時期、費用負担、排水や積雪への配慮、責任の範囲、将来の所有者への引き継ぎなどを明記します。
写真や図面を添付すると、将来の確認が容易になります。
例えば、ブロック塀の場合は「現状のまま使用し、建て替え時に直す」と取り決めることが多いです。
カーポートなら雨樋の角度を調整する、屋根の端を切る、柱の位置を見直すなどの対応で解決できます。
植木の場合は、枝の剪定や根止めの施工で越境を防ぐことができます。

よくある質問
Q 越境が数センチだけの場合でも覚書は必要ですか?
A 必要です。小さな越境でも、将来の売買や融資の際に問題になることがあります。数字と写真でしっかり記録を残しましょう。
Q 前の所有者が作った塀でも、今の所有者が費用を払うのですか?
A 実務上は現所有者が対応するのが一般的です。原因や関係性に応じて折半にする場合もあります。覚書で「建て替え時に是正する」と決めておくと公平です。
Q 覚書に法的な効力はありますか?
A 覚書は当事者間の合意として有効です。より強い効力を持たせたい場合は、公正証書にしたり、地役権設定を行ったりする方法もあります。
まとめ:越境は「敵」ではなく「課題」
越境問題は、冷静に事実を確認し、合意して書面に残すことで円満に解決できます。
費用は原因者負担を基本としつつ、折半や使用承諾など柔軟な対応を取ることで、関係を悪化させずに前へ進めます。
数センチの越境でも、放置すれば将来のトラブルにつながります。
早めの確認と記録で、安心してお隣と良い関係を築いていきましょう。